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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)119号 判決 1992年12月24日

東京都港区赤坂2丁目21番1号

原告

川本正

訴訟代理人弁護士

水田耕一

同弁理士

野本陽一

東京都港区西麻布3丁目20番9号ハイネス麻布202

被告

田井中千代松

訴訟代理人弁理士

首藤俊一

主文

特許庁が昭和56年審判第11559号事件について平成4年3月31日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者が求めた裁判

1  原告

主文同旨の判決。

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

(1)  原告は意匠に係る物品を「墓前花立筒」とする登録第13522号意匠(「本件意匠」、その構成は別紙昭和56年審判第11559号審決写別紙第一のとおり。)の意匠権者であるが、被告は、昭和56年5月30日、原告を被請求人として、特許庁に対し、本件意匠の登録にっき、無効審判の請求をした。特許庁は、この請求を昭和56年審判第11559号事件として審理し、昭和60年7月11日、「本件意匠の登録を無効とする。」との審決(「第1回審決」)をなした。原告は、その審決取消の訴えを提起し(「第1回取消訴訟」)、昭和62年2月24日、上記審決を取り消す旨の判決(「第1回判決」)を得、この判決は確定した。

(2)  特許庁は、上記判決後、昭和63年4月15日、「本件意匠の登録を無効とする。」との再度の審決(「第2回審決」)をなしたので、原告は、その審決取消の訴えを提起し(「第2回取消訴訟」)、平成元年1月30日、上記審決を取り消す旨の判決(「第2回判決」)を得、この判決は確定した。

(3)  特許庁は、上記判決後、平成4年3月31日、「本件意匠の登録を無効とする。」との審決(「本件審決」)をなした。

2  本件意匠の形態の要旨及び本件審決の理由の要点は、別紙昭和56年審判第11559号審決写理由欄記載のとおりである。(以下、上記記載のうち甲第4号証意匠、同第7号証意匠、同第8号証意匠、同第9号証意匠、同第14号証意匠をそれぞれ引用意匠1、同2、同3、同4、同5という。引用意匠1ないし5の構成はそれぞれ上記審決写別紙第二ないし第六のとおり。)

3  取消事由

(1)  本件意匠における墓前花立筒の台座の基台石に対する定着手段の形状(台座の回転防止のため台座脚筒部の底板中央部に正方形の孔を設けた形状)は、墓前花立筒の意匠の要部をなすものであるところ、この形状が引用意匠1ないし5のいずれにもみられず、それらの意匠にみられる定着手段の形状とは類似しない。

また、本件意匠の定着手段の形状が、この種の物品以外の分野の定着手段の形状としてもみられない。

(2)  したがって、当業者がこの種の属する分野で広く知られた形状に基づいて、容易に上記定着手段の形状を創作することができたということもできない。

さらに、上記定着手段の形状を、この種の物品以外の分野の定着手段の機能的ないし構造的部分を利用し応用して、商慣習上通常なされる程度にその部位について改変させて現すことも不可能である。なぜなら、そのような、改変の対象となるべき定着手段が、この種の物品以外の分野にも存在しないからである。

以上のとおり、本件意匠は、意匠の要部をなす上記定着手段の形状において新規性・創作性を有するものであるから、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が、日本国内において広く知られた形状である引用意匠1ないし5に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものということができない。

しかるに、本件審決は、「本件意匠は、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が、日本国内において広く知られた形状である引用意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと云わざるを得ない」と認定判断したのは誤りであるから、本件審決は違法として取り消されるべきである。

第3  請求の原因に対する認否

請求の原因1、2及び3の(1)は認める。

第4  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

1  請求の原因1及び2は当事者間に争いがない。

2  請求原因3の(1)も当事者間に争いがない。このうち、「本件意匠における墓前花立筒の台座の基台石に対する定着手段の形状(台座の回転防止のため台座脚筒部の底板中央部に正方形の孔を設けた形状)が、墓前花立筒の意匠の要部をなすものであること、この形状が引用意匠1ないし5のいずれにもみられず、それらの意匠にみられる定着手段の形状とは類似しないこと」については、当事者間に争いのない別紙昭和56年審判第11559号審決写別紙第一ないし第六に示された本件意匠及び引用意匠1ないし5の構成からも明らかであるし、審決も「台座のうち、いわゆる固着手段および定着手段について、たとえ、その一部に甲各号意匠(引用意匠1ないし5)から容易に創作することが出来ないとされる部分を、機能的ないし構造的に包含していたとしても」と摘示してこの事実を容認していると解せられるところであって、この事実によれば、この種の分野の物品に係る意匠である引用意匠1ないし5そのものから、本件意匠の要部をなす墓前花立筒の台座の基台石に対する定着手段の形状を、容易に創作をすることができたものとは認めることができない。また、「本件意匠の定着手段の形状が、この種の物品以外の分野の定着手段の形状としてもみられないこと」についても当事者間に争いがなく(なお、本件に現われた全証拠を検討するも、本件意匠の定着手段の形状が、この種の物品以外の分野の定着手段の形状として存在することを肯認することはできない。)、前記定着手段が「この種の物品以外の分野の固着手段および定着手段の機能的ないし構造的部分を利用し応用して、商慣習上通常なされる程度にその部位について改変させて現わした程度にすぎない」との審決の判断は、かかる定着手段がこの種の物品以外の分野においてみられることを前提とするものと解せられる以上、その前提を欠き、失当といわざるを得ない。

したがって、本件意匠は意匠法3条2項所定の容易に創作することができた意匠と認めることはできず、本件審決のこの点についての認定判断は誤りであるから、違法として取消を免れない。

3  よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

昭和56年審判第11559号

審決

東京都港区西麻布3丁目20書9号

ハイネス麻布202

請求人 田井中千代松

東京都中野区若宮1丁目45番8号

代理人弁理士 飯塚誠厚

東京都千代田区内神田1丁目18番11号

東京ロイヤルブラザビル 301号

代理人弁理士 首藤竣一

東京都港区赤坂2丁目21番1号

被請求人 川本正

東京都港区西新橋2丁目8番4号 寺尾ビル

代理人弁理士 野本陽一

上記当事者間の登録第550709号意匠「墓前花立筒」の登録無効審判事件(昭和56年審判第11559号)についてした昭和63年4月15日付の審決に対し、東京高等裁判所において、審決を取り消す旨の判決(昭和63年(行ケ)第103号、平成元年1月30日判決言渡)があつたので、更に、次のとおり審決する。

結論

登録第550709号意匠の登録を無効とする。

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

第1 請求人の申立および理由

請求人は、結論同旨の審決を求める。と申立て、その理由として、本件登録第550709号意匠(以下、単に本件登録意匠という。)は、その出願前日本国内において公然知られた意匠であり、また、その出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠に類似するものであり、さらに、その出願前に日本国内において広く知られた形状に基いて当業者が容易に意匠の創作をすることができたものであり、意匠法第3条第1項各号および同条第2項の規定に該当し、その登録を無効とするべきものである旨の主張をし、その主張事実を立証するため、当初、甲第1号証ないし甲第7号証および証拠調べを申し立て、そして、検甲第1号ないし検甲第3号を堤出した。そうして、その後、昭和62年12月10日付第4弁駁書において、新たに甲第8号証乃至甲第15号証を提出した。

第2 被請求人の答弁

被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由として、甲第3号証、甲第5号証、甲第6号証および検甲第1号ないし検甲第3号については不知。甲第4号証に基づいて当業者が容易に創作することができたものではない。さらに、甲第7号証の意匠と本件登録意匠と対比すると、全体的な形状構成において、本件登録意匠が過分数的な印象を与え、台座の環状鍔は4半円弧面状を呈し、脚筒部の下端に底壁を有するものであるのに対して、甲第7号証の意匠は、全体的にずんぐりとし、重心の低い印象を与え、台座の環状鍔部ほ扁平な伏血状の外観を呈し、脚筒部の中間部に底壁を有している点における差異が顕著であり、到底両者は類似するものではない。したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項各号および同条第2項に規定する意匠に該当しない旨の主張を当初なし、その主張事実を立証するため、乙第1号証の1ないし4および乙第2号証を提出した。そうして、その後、請求人が新たに昭和62年12月10日付第4弁駁書において提出した甲第8号証乃至甲第15号証について、被請求人は、平成2年5月24日付第7答弁書において、甲第8号証乃至甲第15号証によれば本件登録意匠の要部たるべき定着手段及び嵌合手段がどのよな形状のものであるか全く不明である。上記各甲号証記載のものは本件登録意匠に類似するものではない。

以上のとうり本件登録意匠は意匠法第3条第1項各号の規定に該当するものでもなければ同条第2項の規定に該当するものでもない、旨主張した。

第3 当審の判断

1. 本件登録意匠

本件登録意匠は、昭和52年4月14日の出願にかかり、昭和55年12月25日に登録第550709号として設定の登録がなされたものであって、願書の記載および願書に添付した図面記載のとおりであり、これによれば、意匠に係る物品を「墓前花立筒」とし、意匠に係る形態を図面にょって現わしたもので、その意匠の内容は、別紙第一に示したとおりである。

その意匠の形態の要旨は、筒体の口部を朝顔状に拡開した花立て部の下端に、脚筒を有する伏皿状の台座を嵌合した基本的な構成態様のものである。

その具体的な態様についてみると、花立て部は、口径1、高さ約2、底径約0.5の比率とした逆円錐台形状の有底筒体の口部を拡開して朝顔状にしており、底部に一回り小さい径の短円筒状の突出部を設けて、その外周にネジ山を現わしたものである。台座は、伏皿状の環状鍔部と脚筒部からなり、環状鍔部は、直径が花立て部の口径の約0.8、同じく高さが約0.1の比率のもので、断面形状が1/4円弧状の凸弧面状に形成したものであって、平面の中央に花立て部の突出部と嵌合する大きさの円孔を設けたものであり、脚筒部は、高さが花立て部の口径の約0.3の比率の上下の径を違えた有底円筒で環状鍔部の円孔から下垂させており、上半分の内周にネジ山を現わし、下半分は上半分より一回り小さい径とし、底板の中央に正方形の孔を穿ったものであって、花立て部と台座とを螺着したものである。

2.本件登録意匠の創作容易性の如何について

請求人は、本件登録意匠は、その出願前において、墓地用花立として、口部が漏斗状に開いた円筒形胴体と伏皿状台座及び括脚部(石突き)より構成されている態様のものは、甲第4号証公報の図面に記載されているとおりであり、本件登録意匠は、石花立の構造は別として、その円筒形胴体を所謂朝顔形と成し、括脚部即ち石突きの下部を直筒形と成したものに該当し、そしてこのような筒部や石突きの形状は、例えば、仏壇用花器、飲食器その他いろいろな物器に用いられている所謂ありふれた形状に過ぎない。仍って本件登録意匠は前記公知の甲第4号証の花立と、このありふれた形状に基づいて当業者の容易に創作することができたものと認められる、旨の主張をなし、そうして、その後、昭和62年12月10日付第4弁駁書において、新たに甲第8号証乃至甲第15号証を提出して、本件登録意匠は、これらの公知の墓前花立の形状から容易に創作できる意匠であるから、意匠法第3条第2項の規定にも該当する、旨についても主張している。したがって、以下、この点について審究する。

そこで、請求人の提出した証拠方法のうち、甲第4号証、甲第7号証乃至甲第9号証、および甲第14号証の1ないし3によって示された各意匠(以下、甲各号意匠という。)について検討する。

イ.甲第4号証について

甲各号意匠のうち、甲第4号証に示された意匠は、請求人が甲第4号証として提出した刊行物(写し)に掲載されたものであり、その刊行物は、特許庁発行の実用新案公報であって、同公報には実用新案出願公告(公告、昭和34年11月10日)昭34-18080号「琺瑯製墓地用花立」が所載されており、同公報の下段には琺瑯製墓地用花立に関する第1図乃至第3図が記載されているものであって、その第1図乃至第3図によって示される各意匠であり、その意匠の内容は、別紙第二に示したとおりのものである。(以下、甲第4号証意匠という。)

ロ.甲第7号証について

甲各号意匠のうち、甲第7号証に示された意匠は、請求人が甲第7号証として提出した刊行物(写し)に掲載されたものであり、その刊行物は、特許庁発行の公開実用新案公報であって、同公報には実開昭51-14300号(公開、昭和51年11月17日)「墓前花立筒」が所載されており、同公報の下段には墓前花立に関する第1図乃至第4図が記載されているものであって、その第1図乃至第4図によって示される各意匠であり、その意匠の内容は、別紙第三に示したとおりのものである。(以下、甲第7号証意匠という)

ロ.甲第8号証について

甲各号意匠のうち、甲第8号証に示された意匠は、請求人が甲第8号証として提出した刊行物(写し)に掲載されたものであり、その刊行物は、本件登録意匠の出願日前の発行と認められる業界新聞であって、岡崎市上佐々木町鹿乗21-3、日本石材工業新聞社発行の「日本石材工業新聞」、昭和48年10月5日号 第671号 第18頁所載の「花立の川本商店の墓装用品各種」の広告欄のうち、左側の上方二段の写真版に示されろ各意匠であり、その意匠の内容は、別紙第四に示したとおりのものである。(以下、甲第8号証意匠という。)

ハ.甲第9号証について

甲各号意匠のうち、甲第9号証に示された意匠は、請求人が甲第9号証として提出した刊行物(写し)に掲載されたものであり、その刊行物は、本件登録意匠の出願日前の発行と認められる業界新聞であって、岡崎市上佐々木町鹿乗21-3、日本石材工業新聞社発行の「日本石材工業新聞」、昭和48年12月5日号 第677号 第16頁所載の「花立の川本商店の墓装用品各種」の広告欄のうち、左側の上方二段の写真版に示される各意匠であり、その意匠の内容は、別紙第五に示したとおりのものである。(以下、甲第9号証意匠という。)

ニ.甲第14号証の1について

甲各号意匠のうち、甲第14号証の1に示された意匠は、請求人が甲第14号証の1として提出した刊行物(写し)に所載されたものであり、その刊行物は、本件登録意匠の出願日前の発行(尚、当該刊行物の奥付には発行年月日が記るされていないが、請求人が提出した岡崎市上佐々木町鹿乗21-3、日本石材工業新聞社発行の「日本石材工業新聞」昭和51年4月5日号 第755号(附録)の最下段に「株式会社エス出版部」編集発行にかかる「日本石造美術シリーズ第1巻五輪塔」についての好評配本中なる書籍の広告が掲載されており、これによれば、遅くとも該書籍の発行は昭和51年4月5日以前であることが認められる。)と認められる書籍であって、東京都渋谷区代々木4-23-13 エトアール代々木603号 株式会社ニス出版部編集発行(上記広告会社と同一と認められる)の「日本の石造美術シリーズ1」所載の写真版によって示される「佐藤家」なる墓石の墓前花立筒の意匠であり、その意匠の内容は、別紙第六に示したとおりのものである。(以下、甲第14号証意匠という。)

そこで、審案するに、請求人は、甲各号意匠に基づいて本件登録意匠は当業者が容易に創作することができたものである、旨についても主張しているところであり、甲各号意匠の内容については、別紙第二乃至同第六にも示したとおりのものである。

ところで、意匠に係る物品を墓前花立筒等とする意匠において、花立て部の下端に、脚筒を有する台座を嵌合した構成は、本件登録意匠の意匠登録出願前において、周知のものであったことが、甲第4号証意匠から認められ(昭和60年<行ケ>第138号)、そうして、花立て部につき、筒体の口部を朝顔状に拡開した基本的な構成態様のもので、およそ口径1、高さ約2、底径約0.5の比率とした、あるいはこれに近似した比率の逆円錐台形状の有底筒体の口部を拡開して朝顔状に形成した形状のものは、甲第8号証意匠、甲第9号証意匠および甲第14号証意匠等にみられるとおり、本件登録意匠の意匠登録出願前において公知であったことが認められ、とくに、甲第8号証意匠および甲第9号証意匠として示されるものについては、広く知られていたものと認められ、このことは、上記のうち、請求人が提出した甲第8号証および甲第9号証として示されるいわゆる業界紙である「日本石材工業新聞」が、本件登録意匠の意匠登録出願前である昭和48年の発行にかかるものであり、また、請求人が提出した甲第11号証によれば、その新聞は少なくともその時点においては毎月3回発行されていることが認められるものであるから、いわゆる当業者間においては、上記の形状は広く知られているものとして差しつかえない。なお、甲第8号証意匠および甲第9号証意匠として示された証拠は刊行物の写しであって、やゝ細部について明らかでない部分が存するものの、基本的な構成態様およびその具体的な態様のうち、すくなくとも、本件登録意匠の形状に近似した比率の逆円錐台形状の筒体の口部を拡開して朝顔状に形成した形状について、その態様を十分に把握することが出来るものである。そして、甲第 4号証意匠は、本件登録意匠の意匠登録出願前てる、遅くとも昭和51年4月5日以前に発行された書籍に掲載されたものであり、当該頁の写真版によれば、花立て筒の墓台石への定着手段ないし花立て筒の台座への固着手段について明らかではないものの、前記の花立て部の筒体の形状および台座の伏皿状の環状鍔部の外形状、ならびに筒体と台座の組み合わせた態様について、大へんよく知られたものであったことが認められる。

そうして、花立て筒の墓台石への定着手段ないし花立て筒の台座への固着手段に関して、花立て部の底部の構造、台座の環状鍔部と脚筒部の構造、およびその形状ならびにそれらの態様の点につき、とくに、(イ)、花立て部の底部が一回り小さい径の短円筒状に形成された点について、甲第4号証意匠の第1図及び第2図、甲第7号証意匠の第1図にみられるとおり、本件登録意匠の意匠登録出願前において公知であったことが認められ、とくに、甲第4号証意匠として示されるものについては、広く知られていたものと認められる。

次に、台座につき、(ロ)、伏皿状の環状鍔部および脚筒部によって構成されている点について、環状鍔部と脚筒部とが一体のもの、別個のものともに、甲第4号証意匠の第1図、甲第7号証意匠の第1図、第2図および第3図にみられるとおり、本件登録意匠の意匠登録出願前において公知であったことが認められ、とくに、甲第4号証意匠として示されるものについては、広く知られていたものと認められる。(ハ)、台座の環状鍔部の中央に円孔を形成した点について、環状鍔部と脚筒部とが一体のもの、別個のものともに、甲第4号証意匠の第1図および第3図、甲第7号証意匠の第1図および第2図にみられるとおり、本件登録意匠の意匠登録出願前において公知であったことが認められ、とくに、甲第4号証意匠として示されるものについては、広く知られていたものと認められる。(二)、環状鍔部が、高さがわずかな低いもので、断面形状が約1/4円弧状の凸弧面状に形成された点について、環状鍔部と脚筒部とが一体のもの、別個のものともに、甲第4号証意匠の第1図および第3図、甲第7号証意匠の第1図および第2図にみられるとおり、本件登録意匠の意匠登録出願前において公知であったことが認められ、とくに、甲第4号所意匠として示されるものについては、広く知られていたものと認められる。(ホ)、台座の環状鍔部の外縁が花立て部の底径より大きくはみ出した、花立て部と台座の組み合せの態様について、甲第4号証意匠の第1図、甲第7号証意匠の第1図および第4図、甲第8号証意匠、甲第9号証意匠および甲第14号証意匠にみられるとおり、本件登録意匠の意匠登録出願前において公知であったことが認められ、とくに、甲第4号証意匠、甲第8号証意匠、甲第9号証意匠として示されるものについては、広く知られていたものと認められる。(へ)、台座の環状鍔部および脚筒部を墓台石に定着する手法(手段)について、甲第4号証意匠の第1図および第2図、甲第7号証意匠の第1図および第3図にみられるとおり、本件登録意匠の意匠登録出願前において公知であったことが認められ、とくに、甲第4号証意匠として示されるものについては、広く知られたものと認められる。

してみると、上記に述べた各点を前提にして、本件登録意匠を全体として考察するに、本件登録意匠は、その意匠に係る形態が、前記第3の1で述べたとおりのものであり、その意匠は、本件登録意匠の意匠登録出願前より意匠に係る物品を「墓前花立筒」あるいは「墓地用花立」等とする意匠の分野において、その意匠に係る形態のうち、花立て部につき、前記のとおり、この種の意匠の属する分野における通常の知識を有する者において広く一般化していたものであって周知のものであったところの筒体の口部を朝顔状に拡開した基本的な構成態様のもので、およそ口径1、高さ約2、底径約0.5の比率とした逆円錐台形状の有底筒体の口部を拡開して朝顔状に形成したものであって、加えて、その花立て部の台座への固着手段との関係において、その底部を、前記(イ)で述べたとおり、当業者間において広く一般化していたとおりの花立て部の底部を一回り小さい径の短円筒状に形成したものであり、次に台座につき、前記の(ロ)、(ハ)、(ニ)、および(ホ)で述べたとおり、当業者間において広く一般化していたものであって周知のものであったところの伏皿状の環状鍔部と脚筒部からなり、環状鍔部をその中央に円孔を形成した、高さがわずかな低いもので、縁部の断面形状が約1/4円弧状のもので凸弧面状に形成し、脚筒部を有底円筒で径の小さい短円筒状として環状鍔部の円孔から下垂させ、そうして、花立て部と台座の組み合わせの態様を、当業者間において広く一般化していたものであって周知のものであったところの台座の環状鍔部の外縁が花立て部の底径より大きくはみ出した態様に組み合せたにすぎないものと云わざるを得ず、就中、「墓前花立筒」あるいは「墓地用花立」等とする意匠の分野においては、意匠的には、それらの意匠の大部分を占める花立て筒および環状鍔部の態様ならびにその組み合せた状態の態様について注目されることが一般的であり、「墓前花立筒」あるいは「墓地用花立」等に関する固着手段あるいは定着手段について、本件登録意匠が、環状鍔部と脚筒部とが一体に形成されている点、脚筒部が上下の径を違えた点、底板の中央に正方形の孔を穿った点および花立て部と台座とを螺着した点をそれぞれ部分的に包含するものであったとしても、何れの点もこの種の物品に限らず、本件登録意匠の意匠登録出願前において大へんよく知られていたところの構造ないし機能のものであって、それの利用ないし応用にすぎず、また、これらの組み合わせについても、甲第4号証意匠および甲第7号証意匠にもみられるところであり、本件登録意匠にのみみられる格別特異性のある意匠的創作があったとすることが出来ないものである。

結局、本件登録意匠は、墓前花立筒等の意匠において、意匠的に最も重要視される部分であって、その意匠の大部分を占める花立て筒および環状鍔部の態様ならびにその組み合せた状態の態様について、前記のとおり周知のものであり、その台座のうち、いわゆる固着手段および定着手段について、たとえ、その一部に甲各号意匠から容易に創作をすることが出来ないとされる部分を、機能的ないし構造的に包含していたとしても、意匠的にはさほどまでに重要視されない部分(このことは当庁において顕著な事実であり、特に、本件登録意匠の類似5参照のこと)の限られた部位について、当業者間において周知のものであったところの固着手段および定着手段に関して、この種の物品以外の分野の固着手段および定着手段の機能的ないし構造的部分を利用し応用して、商慣習上通常なされる程度にその部位について改変させて現わした程度にすぎず、結果として、本件登録意匠は、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が、日本国内において広く知られた形状である甲各号意匠に基いて容易に意匠の創作をすることができたものと云わざるを得ない。

4.むすび

以上のとおりであるからその他の点について審理するまでもなく、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項に規定した意匠に該当するものであり、その意匠登録は、同法同条同項の規定に違反してなされたものであるから無効にすべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。

平成4年3月31日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

別紙第一

<省略>

別紙第二

<省略>

別紙第三

<省略>

別紙第四

<省略>

別紙第五

<省略>

別紙第六

<省略>

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